自転車好きでない人や素人がスポーツ車に乗るようになると、逆に何でもかんでもメーカーの責任にしたがる傾向がある。例えその使用方法が間違っていても、最初は店、相手にしてくれないと製造元や輸入元に電話したりする。冒頭に書いたアメリカの裁判、クイックレリーズハブ(以下QR)の事である。現在、QRのハブを使う市販スポーツ車の全てと言っていいほど、レバーを緩めてもすぐに外れないようにフォークエンド部に出っ張りが設けてある。また、フォーク先端部には注意を促すデカールが貼ってある。昔から自転車をやっている人間にとっては、何のためのQRなんだ?と思う人も多い。しばらく自転車に乗っていなかった出戻り派の人が1年程前に自転車を購入、その日の夕方に「前の車輪がすぐに外れない!」と電話があった事もある。 |
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こんな事になってしまったのはアメリカでの事故があったからである。もう何十年も前、アメリカでサイクリングブームがあった。メーカーも他社と差別化するために高級品に使われているものと同じですよ、と云った事でアルミのパーツ、クロモリ(メインチューブだけだったが)のフレームなど、素人向けのスポーツ車にいろいろ盛り込んでいった。その中にQRハブもあった。これが問題を起こした。QRレバーの締め具合、素人に分かるはずもない。今でもそうだがくるくる回して固定したり、小指でもレバーが動くくらいに緩く締めてあったりする。QRレバーは体で覚える感触、ある意味、技術である。そんな取扱い方を誤って走行中に前輪が外れての事故が相次いだ。アメリカは訴訟の国、高額な賠償金の判決が出てきたと云った経緯があり、いろんな対策方法がとられた結果、現在のような状況になっている。 |
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このような事件(事故)が続くとアメリカブランド車の保証書に付属したような受取用紙が必要になってくる。QRの説明を受けましたとか、変速レバーの説明を受けましたとか、定期点検をするよう説明を受けましたとか、何十項目にわたる説明を延々と受け、了承しましたと云うサインをしてからでないと自転車を受け取れないようになってくる。日本のメーカーでも保証書にそんな記載をしている事も増えてきた。 |
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実際、自転車の受け渡し時、QRの説明や変速機の扱い方、フレンチバルブの空気の入れ方などあれこれ教えても、欲しかった自転車が目の前にあると、興奮していて半分上の空で聞いているお客さんも多い。後から電話で空気の入れ方を問い合わせてくる人もいるが、電話だと教えるにも難しい。そんな具合で、10教えても覚えているのは半分くらいと云った事も多い。 |
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今回の判決、フォークそのものの欠陥に関してはどうでもいい、購入してからの6年間、点検を受けていない事の過失相殺はわずか1割と、被害者にかなり有利な結果になっている。単純に言えば、自転車を購入して数年、ほったらかし、または乗りっぱなしで点検を受けていなくても、事故が起こってしまえば本人の過失が少ないと云う事になり、それを悪用するような輩が出てくる可能性だってある。輸入元、製造元、販売元だけでなく、販売店、販売担当者の責任というのも問われてくる。購入希望者の人と為りを見極めてから販売する、時には初心者には売らないという店が出てくるのかもしれない。 |