カガワの自転車
清ちゃんの
オーバーホール日記



第288回

清ちゃんのコレクション(その49)クローチェ・ダウネ リヤディレーラー



 先週、春需も一段落した土曜、お客さんとの話の中でクローチェ・ダウネの話がちょっと出た。その日帰って、妙に気になり変速機(押入れの割と手前に置いている)を取り出してみた。実はクローチェ・ダウネ、フルセットで持っている。特別に欲しくて買ったわけではないが、リヤディレーラーだけは気になっていた。それだけ入手すればよかったのだが何故かフルセットで手元にある。



 この頃のカンパのラインナップとして、上にはCレコード、下にはコーラスやアテナがあった。クローチェ・ダウネと云うのは所謂、セカンドグレードである。当時、カンパの各グレードはそれぞれのグループに個性を持たせていた。似たような外観を持たせ上級グレードのイメージを下部グレードに持たせるといった今のコンポのやり方とは違っていた。チェンホィールなどもそれぞれのグループで全く形状が異なっていた。



 リヤディレーラーにしてもグループの違いが判るようになっていた。機構そのものが違っていた。Cレコードは初期型から改良されていた。クローチェ・ダウネはロット棒を使った機構、コーラスは本体がスラントパンタでその角度が2段階で調整ができるものと云った具合で、それぞれに全く違う構造になっていた。ある意味、カンパの試行錯誤の時期だったのかもしれない。時期としてはシマノがインデックスを発売、徐々にアマプロ問わず浸透してきた頃である。それに対し、どのような対抗策をとったらいいのかを模索していた時期である。



 インデックスは変速レバーのワイヤー巻取り量によって任意の位置に変速機をもっていくものである。レバーを一段階動かせば変速機がトップからセカンドへといった具合に動くようにするためのものである。ところがワイヤーというのは使っていれば伸びてしまうという弱点を持っている。そのためシマノの初期のインデックス(ポジトロンと呼ぶ)ではワイヤーの代わりにピアノ線を使っていた。現在でもブレーキや変速機には必ずワイヤー伸びを調整するためのネジが付いている事を見ればワイヤーの伸びと云うのは永遠の課題なのかもしれない。



 さて肝心のクローチェ・ダウネのディレーラーだが、見ると後に小さなロット棒がある(カンパではツインアクスルシステムと呼んでいる)。変速のためにはワイヤーの伸びだけでなく、本体の捻じれやプーリーの捻じれ、歯先形状等、様々な要因も加わってくる。決してワイヤーだけの問題ではない。廉価な自転車でワイヤーだけ良いものにしても変速のキレが悪いというのはチェンや歯の精度の問題や変速機の変形等があるからでもある。高級品といっても少なからずそんな弱点はある。それを解決するためにパンタグラフ部に梁を入れて、強制的にプーリーの移動をしようとしたものである。最初に見た時、“頭いい!”と思った事を思い出す。



 このディレーラー、実に面白い動きをする。これは実際手にとって動かしてみるか装着してみると一目瞭然なのだが、文では書き表しにくい。普通なら動かないアウターストッパーが動くし、変速機取付ボルト部と連動してロット棒が動くのである。本体そのものは後退して、縦型変速機であるにも関わらずガイドプーリーが歯先に近づいていくような機構になっている。メカマニアにとってはたまらないかもしれない。ただ、この面白い機構、このクローチェ・ダウネ、一代限りであった。その後、カンパも横型変速機へと移行していく。複雑な機構を使わなくともコストや重量面でのメリットが多かった。インデックスに振り回されていた頃のカンパの技術者の苦悩が偲ばれる製品の一つである。



第289回へ続く...

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