手紙を出して半月程して返事が来た。差出人はプレジデント、エドモンド・メルシェ。社長、直々の返事である。おそるおそる封を開けた。結果から言えばOKである。見積もりも細かく出してある。振込み銀行や口座も記してあった。東洋の片隅からの個人注文を受けてくれたのには感激した。あとは金策である。とりあえず、手持ちの自転車・部品を買ってくれる人を捜すことから始まった。何とか買い手もついて、資金は準備できた。振込みは勤めていた会社に銀行員が定期的に来ていたので頼んだ。振込みも終わった。あとは到着を待つだけである。 |
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数ヶ月後、インボイスが届いた。いよいよ自転車到着である。場所は横浜税関。通関専門の業者もあるが、金額が高いので自分で引き取りに行くことにした。有給休暇を使って平日、わくわくしながら家を出た。それにしても、お役所である。あちらこちらをたらいまわしにされた。先にウエアも一緒に注文したと述べたが、チームウエアも半袖、長袖、トレーニングジャージ上下、ウインドブレーカー、グローブ、冬用キャップ、夏用キャップ等ソックスに至るまで注文した。これが面倒なことになった。税率は品物によって違う。贅沢品は高く、そうでないものは低く設定されている。ウエア類もメルシェロゴが貼ってあるものはいいが、刺繍だと高くなる。いちいち袋から出してのチェックである。 |
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うんざりしているところに更に追い討ち。ホィールなしで頼んでいたため、フレームと部品が別になっている。つまり完成車扱いではないのである。カタログと見積書を見せながら孤軍奮闘すること数時間、やっと書類を書き上げた。税関にも粋な人がいるもので、書類を見ながら「これは自転車部品?」と尋ねられた。「そうです」と答えると、「自転車部品だと税率は高いけど、機械部品だと低いよ。再度聞くけど、これは自転車部品?」、機械部品だと答えると笑顔を見せてくれた。そんなこんなで、持ちかえったのは夕方になった。疲れたが、それでもうきうきした気分だった。 |
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家に持ちかえり、包装を解く。今はビニールやエアマットで包装されている事が多いが、以前はフレームだけは5センチくらいの幅の紙テープだった。これを徐々に剥がしていく作業は、全体が少しずつ現れてくる、ときめきがあった。車輪はすでに用意していたので仮組みはその夜の内に終わった。自転車を枕元に置いて、その夜は眠った。(続く) |