前回の芯の話に関連して、今回はフロントフォーク(以下フォーク)の話を書きたい。自転車メーカーではフレームとフォークを作っている。そう思いがちだが、必ずしもそうではない。驚かれるかもしれないが事実である。全部が全部ではない。メーカーによっては、また車種によっては、フォークだけは外部で作っているものを塗装して組付けている。ママチャリ等の一般車などはその典型である。もちろん内部で作っているところもある。 |
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今は日本で製造ということもなくなってきたが、10年以上前は日本でもフォーク屋さんが数社あった。フレームパイプメーカーのタンゲがフォークを作っていたことを知っている人も多いのではないだろうか。専業のメーカーもあった。これは分業制が輸送機器の基本構造であり、その名残とも言える。クルマやオートバイにしてもサスペンションやバッテリーをトヨタや日産が作っているかと言えばそうではない。自転車も変速機はシマノやスラムといった具合である。その延長線にフォークもあると言えば分かりやすいかもしれない。 |
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ロードでいえばフレームはアルミ、フォークはカーボンといった自転車だと間違いなく、フォークは社外部品である。また、MTBのサスペンションフォークは言わずとも理解できると思う。一般にフォークというのはフレームの付属品というような目で見られている。どうしても面積の多い、取付部品の多いフレームの方に目が行きがちになる。ところが、時にはフレームより重要な役目を担っている。フォークには操舵輪という重要な役目がある。フォークがいいかげんだと真っ直ぐに走らない、曲がる事ができない。ほとんどの人はそれを自分の体で無意識の内に修正して乗っている。 |
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また、衝撃吸収といった役割もある。これは路面からの衝撃を拾ってくれるのと、何かにぶつけた時の衝撃を吸収、緩和する二つの役割のことである。材質やその厚み、曲がり、長さやオフセットでフォークは自転車の乗り心地の半分以上を担っている。考え方によれば、フォークの乗り心地を活かすためにフレームがあるという人もいるくらいである。フォークの味を出すためにヘッドアングルを導き出し、タイヤを選ぶ。フォークの味を濃くするためにホィールベースやリヤセンターを考えるといった手法である。ディレーラー等、トランスミッション系やブレーキ、ホィールを交換してグレードアップする人は多い。しかしフォークを交換する人はMTBのサスペンションフォーク以外、ほとんどと言っていいくらいにいない。フォークを交換してみればタイヤ以上に体感できるかもしれない。 |
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最後に、前回で芯のことを書いたが、どうして芯が出ていると体感できるのか、との質問が届いた。これはもう、本当に芯が出ていた自転車に乗っていたから分かるとしか言いようがない。昔、何台もオーダーした。乗るつもりのない特殊自転車(いずれコレクションで紹介する予定:まだ押し入れの奥に眠ったまま)もオーダーしたことがある。作る側にとっては迷惑な話だろうが、そんな自転車でさえ「芯出しをするから車輪を持って来て!」と電話がかかってくる。「いや、先に言った通り、飾り用だから芯が出ていなくてもいいですよ」と答えても、そこは職人さん、やはり最後の仕事をしなければ気がすまない人達ばかりである。後日、持って行った。そんな職人さん達が作ってくれた芯の出た自転車を乗り継いできた。そこで体感した乗り味は体が覚えていてくれる。絵画の鑑定士が偽物を見破るには本物を常に見ておくことだと何かの番組で話していた。自転車も同じだと思う。 |