カガワの自転車
清ちゃんの
オーバーホール日記



第19回

清ちゃんのコレクション(その5-1)メルシェ(1)



 メルシェ(実際にはメルシエールと発音する)という自転車をご存知だろうか?中年以上の人だとプリドールやズートメルクといった選手が乗っていたといえば、ああ、あのピンクの自転車ね、と分かってもらえると思う。メルシェは長い間、プロチームを持っていた。ガン・メルシェ、ミコ・メルシェと続いていた名門チームである。ツールドフランスには欠かせないチームだった。メルシェに限らず、フランスのメーカーはまだ、元気だった。プジョーやモトベカン、ルジュンにジタン、いろいろなチームがあった。



 後期のメルシェを持っている。これが手元に来たのが約20年前。個人輸入である。今回はその経緯を書いてみたい。



 その前の年、秋だった。ケルンショーの帰り、パリのグランアルメ通りに寄った。ここは自転車好きにとっては有名な通り、凱旋門を挟んで、シャンデリゼと反対方向にある。この通りにオスカーエッグからスタートし、メーカーの出店等が軒を並べていた。少し離れた通りにもベノット等もあった。とにかく、半日以上、ここで楽しめた。この並びにメルシェもあった。有名なカンパのクランクを使ったドアノブの店である。ここを訪れた際に部品を少し購入。それに自転車や用品のカタログをもらってきた。



 帰国後、それらを見ていたら、どうしても欲しくなった。当時、日本には代理店はなかった。そこで思い切って手紙を書くことにした。欲しいという自分の思い、欲しいもののリスト、見積もりや振込み先を教えてほしいという事を長々と書いた。



 いろいろ思考した結果、ホィールは日本で用意し、梱包を小さくすることにした。こうすることによって、才数や重量で運賃を軽減することができる。また、マビックのプロ用リムを1セット入手していたこともある。車種はメルシェの最上級車種、レイノルズ753を使った軽量車である。このパイプは同社が認めたところにしか出荷していない、つまり、欲しいフレームビルダーやメーカーが申請する。するとレイノルズ社からパイプが送られてくる。それでフレームを作り、送り返す。そこで同社が一定の基準に達していると認められた場合にのみ、供給されるのである。日本ではまだ、どこも扱っていなかったマンガンモリブデン鋼の極薄パイプである。



 パーツはフランス部品ではなく、カンパの新型のスーパーレコード。当時のプロチームと同じ仕様である。ただし、ヘッド小物とBBだけはレコードの鉄のものにしてくれるように頼んだ。というのも、回転部分にアルミを使うことに当時は抵抗を感じていた。実際、周囲でもアルミのヘッド小物が割れたりしたのを見ていたこともあった。



 それに注意すべきはフランス規格。パイプ径やねじ類、インチサイズとは全く違うのである。この頃、フランス車ではルジュンを所有していた。オールフランスパーツである。ちょっと部品ひとつ替えようにも、ねじのサイズが違い、苦労した経験がある。ステム一つ、ペダル一つ、フランス規格の壁があった。フレームに直接取付の部品は最初から取付けておかねば後々、面倒になってくる。



 ウエア類も頼んだ。レース写真を見て、かっこいいと思えるのは自転車とウエアがコーディネイトされているからである(体格やフォームもある)。少し話は逸れるが、ビアンキのチェレステ、年々微妙に色が変わっている。時代に合わせて変化している。今でこそ自転車単体で見ても、いい色だなと思えるが、20年前はそうでもなかった。何か、くすんだグリーンだなあといった程度だった。しかし、これをイタリアの景色の中で見た。ビアンキのチームウエアで走っているその姿、土の色、木の色、建物のレンガの色、乾燥した空気の中で見たその姿は実にきまっていた。チェレステの色が理解できた。自転車単体で見てはいけないのである。そんなことからウエア類も一緒に注文した。
とにかくも、相手にしてくれるかどうかは分からないが、手紙をポストに投函した。(続く)

第20回へ続く...

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