カガワの自転車
清ちゃんの
オーバーホール日記



第16回

清ちゃんのつぶやき(その11)潜在需要



 半年くらい前からだろうか、中年男性が自転車を購入しに来店、といったことが増えてきた。用途は通勤や休日のポタリングということである。原因はガソリン代が上がって大変だからとか、健康管理のためというのがほとんどである。これまでしばらく乗っていなかったと言う人が多い。



 このような人達と話していると必ずといって出てくるのが"ロードマン"と"ランドナー"という2語である。中学や高校時代、自転車通学をした人達にとっては忘れられない言葉である。「昔はミヤタのロードマンに乗ってた」とか、「ナショナルのロードマンに乗ってた」とか、いやいや、違うだろ、ミヤタはカリフォルニアロードであり、ナショナルはランディオーネだろと言っても、皆、"ロードマン"である。そのロードマンに乗って、雑誌を読みあさり、休日には一人で、また数人でサイクリングに出かけていた時代だった。



 かつてはこのようなベーシックスポーツ車というか、スポーツ車入門車があった。それに乗り、運転テクニックや走行技術を磨き、次のステップに向かっていった。早く走ることに目覚めた者はロードレーサーへ、旅行に目覚めた者はキャンピング車へ、スポルティーフに行った人達も多い。その中で一番多かったのがランドナーである。俗に言う短距離旅行車である。ロードマンと同じように、ちょっとそこまでにも使えるし、その気になって装備をすれば数日間の旅行にも使える。それでいてロードマンより上級グレードで軽量化され、性能のいい部品がついていた。今では市販車では皆無と言ってもいいくらいになってきた。オーダーという方法もあるのだが、価格的に高い。



 今、ベーシックスポーツ車がない。ママチャリからいきなりスポーツバイクである。ママチャリからいきなりロードレーサーに乗っても、乗りこなすテクニックがないために楽しめない。続いていくわけがない。確かに入門用ロードや入門用MTBはあるものの、そこで終わってしまうケースも多いし、買い替えても、そのジャンルの上級車になってしまうことも多い。



 メーカーも考えてほしい。中高年男性(いわゆる団塊世代)を狙うのなら、もっと先を考えた自転車を作るべきである。都会風センスを持った男性ばかりではない。フラットロードだけが中高年向けではない。今、提案されている自転車は何か的を外れているような印象を受ける。少し考えれば分かるが、BSのロードマンだけでも年間10万台生産していたのである。他社やその上下の車種(BSだとスプリンターやユーラシア)を含めると20万台が毎年使われていたのである。単純計算で5年で100万人がこれらの恩恵を受けていたのである。ドロップハンドルを使っていた人達も多かったはずである。ドロップハンドルに対する抵抗感はない。このような人達がしばらく自転車を離れ、戻って来たいと思った時、どのような自転車が必要なのか?



 先ずはハンドルである。高さを調整できるようにしておくこと。ステムの角度を調整できるステムもある。だが、考えてほしい。角度があがるとハンドルは手前にきてしまう。このようなステムを使うくらいなら、旧式のステムの方がましである。重量面でも、角度調整機構が付いた重たいステムを使うくらいなら、アヘッドを使う意味がない。従来のヘッド小物とステムの方がいい。競技に使うならともかく、強度はそこまで必要ない。フレームやパーツ、いろんな意味でオーバークオリティになってきているきらいがある。もう一度、原点に戻る必要があるのではないだろうか?



 それにフレーム形状である。どうしても昔のホリゾンタルトップチューブが頭にある。今、アルミの太いチューブでスローピングを見せても、かっこいいねぇで終わってしまう。アルミでもいい、水平もしくは1インチ上がりくらいのダイヤモンドフレームでなければ気を引くことが難しい。逆に言えば、それで気を引けるのである。きっかけさえつかめば販売は楽である。ああだこうだと言いながらも会話に引き込むことができる。



 都会の机の上で企画するのではなく、地方都市や田舎の中年男性とも話しをする機会を持つことである。実際に買うのはこのような人達である。思っているより多くの人がそのような意識を持っている。潜在需要はかなりあると見ている。

第17回へ続く...

目次

清ちゃんへのお便りをお待ちいたしております。