さて、今回は本来の“オーバーホール日記”である。先日、世界一周を目指す青年の話を書いた。自転車を渡して一ヶ月後、点検にも訪れないし、どうしているのだろうかと少し心配していた。話したい事もあるし、もう少しして来なかったら、こちらから連絡をしようかと考えていた。そんなある日、ふと見るとトラックが一台、そう、あの青年とお父さんである。顔を見たら妙に安心した。 |
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トラックから降りてきたものは自転車、昔々のキャンピング車である。店に入れて見てみると相当にひどい状態である。たまたま居合わせたお客さんも少し呆れていた。かって、世界一周を果たし、その後、そのまま放置されていたものである。今回の事をきっかけに走れる状態にしてほしいという依頼内容であった。息子と一緒に走ってみる、父親にとっては夢である。ただ、持ち込まれた自転車は考える事も多く、この日は閉店近くというのもあって、期間や費用面で何とも言えずに預かった。 |
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実はこの日、もう一台のオーバーホール依頼の自転車が持ち込まれた。こちらは以前から11月下旬になったら持ってくると予約されていたものである。2台も同時にできない(なんせ、普段の仕事の合間、合間に作業する)ので、どちらかを優先させなければならない。幸いにも予約されていた方は年内にといったものではない、という事でキャンピング車の方を優先させることにした。 |
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翌日、陽の光の下で改めて見ると、ひどい状態である。自転車は“マッキンレイ”のヘッドマークがかろうじて見える。大阪のみどり製作所のものである。同社は製造そのものはやっていなかったので年代からして作ったのはミキフレームあたりではないかと推測する。部品の仕様はばらばら、旅行途中でいろんなトラブルに遭い、交換しているのだろう。とにかく、各部は錆びまくり、はたして再生できるのか考えてしまった。気を取り直し、先ずは分解作業に入る。分解できなければそこで断念しようと思っていた。各部に注油して一晩おいて作業を始めた。 |
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作業を始めて驚いたことが各部のネジが緩んでいくことだった。ボルトの頭等錆びてはいるが、スムーズに進んでいく。BBを分解するとワンにはたっぷりとグリスが塗ってある。これはフリーホィル(5段!)も同様で、外れないだろうと思っていたのに苦労なく外れる。錆びたスポーク・ニップル(外れなければスポークを切るつもりだった)も前後、各36本、見事に外れた。車輪を組む際、ネジ山やニップルにグリスを塗布されていたおかげである。 |
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分解作業を進めていくと次々といろんな発見がある。汚れていた時には気付かなかったが、前と後のハブが違う。前はシマノ、後はマイヨールである。リムは前後共同じ、リジダ(と思われる)鉄のリムである。これはどこか、旅の途中で何らかのトラブルがあり、車輪そのものを組み直したものと思われる。この他にも交換・修理した部分がいくつかあり、主だった箇所がフランス製のものになっている。どこかで大きな修理をした所がフランス語圏内、またはフランス製自転車を取り扱っている国だったのだろうと思う。 |
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すばらしいのが、作業した人で、“こいつはまたどこかでスポークを交換しなければならなくなる”とか“アルミリムより鉄リム・鉄スポークの方が荷物の負担を和らげてくれるだろう”、“チェンも伸び、フリーホィルだって交換せざるを得ないだろう”とか考えて作業してくれたことにある。乗っている本人には全く関係ないことだが、こうやって交換や分解すると、作業した人の想いやら考えが伝わってくる。きっと自転車好きな人だったに違いない。自転車が好きで、それを生業としている者同士にしか通じない何かが伝わってきた。 |