先日、お客さんと話していたらハンガーノックの話になった。数人で走っていたら、いきなり一人、急に走れなくなったという話である。誰しも、自転車に乗る人にとって、一度は通過する儀式のようなものである。一度体験すると次から何かしらの補給食を必ず持っていくようになる。今ではコンビニがあちこちにあるものの、しばらくない場合はバナナやゼリー、アップルパイのようなものを背中のポケットに入れて走り始める。パイなどは家まであと1,2キロという所まで、一口か二口分残している。 |
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ハンガーノックは経験した人でないと分からない。していない人もその内、必ず一度は体験する。解決方法としては一口でもいいから食べることである。対策としては、水分と同じように、腹が減る前に食べるといったことを繰り返しながら走ることである。そのため自転車の選手は補給食といったものを持って走る。競技に食糧を持って走る、競技の最中に食べるといった事は他のスポーツではあまり聞かない。マラソンでも水分補給程度で、食べるようなことはない。そのためハンガーノックは自転車特有のものだと思っていた。選手管理の行き届いているツールドフランスでさえ、何度も優勝したインデュラインがレース終盤にハンガーノックに陥ったことがある。 |
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持って行く補給食は少し腹にたまるくらいがいい。カロリーメイトやパワーバーとかあるが、走りながら食べるのには向いていない、休憩時に食べる栄養補給食と考えておいた方がいいかもしれない。糖分も必要なのでその点も考えて少し甘めのものが効果がある。そういえば、レース前夜は補給食作りをやっていた。パイを切って一口サイズにし、ラップに包んでいく。桃缶等を開けそれも同じように包んでいくが、選手を寝かせた後に宿舎の台所でやっていた。すると他のチームの監督や付き添いの人も次々にやってきて補給食作りが始まる。互いのチーム作戦の話はしないものの、補給食の情報はいろいろ交換していた。中には大き目のジャムパンをそっくりそのまま持たせるチームもあった。このチーム、終盤、単独逃げ時の登り坂で食べていた。 |
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昔、自分で初めて体験したのは中学生の時、何らかの理由で学校が早く終わり、帰宅していたら近くに住む友人が遊びに来た。どこか走りに行こうという事になり、当然のことながら、何も持たずに出た。20キロ程走り、帰り、突然、ペダルを一踏みもできない状態になった。自分でも何が何だか分からない。脂汗が出てきて道端に座り込んでしまった。友人も何か分からないから何もできないでいる。たまたま、近所のおじさんがトラックで通りかかったので、二人とも乗せてもらった。クルマの中でその話をしたら、「そりゃ、”ちかがつれ”たい。帰ってから何か食えば直る。」と笑っていた。 |
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果たして、帰ってから祖母に同じ話をしたら、同じように「それは”ちかがつれ”よ」と言われ、何か食べて直った記憶がある。もちろん、”ちかがつれ”というのは方言であるが、その時はふ〜んといった感じで聞いていた。今になって考えると”力枯れ”といった意味を持っていたのではないかと思われる。ずっと後年、何気なく見ていた、水木しげるの妖怪辞典で”ひだる神”というのがあり、昔の旅人が山の中で急に一歩も歩けなくなるという項目があった。これは”ひだる神”にとり憑かれたからだといった説明がなされていた。その対策として弁当も全部食べるのではなく、一口分だけ必ず残しておくことだと書いてあった。昔の人はハンガーノックという事を知っていたのである。 |